校長からのメッセージ

校長のことばコラム6 言葉の変化(3)敬語はインフレする?

「殿」と「様」という敬称があります。名前の下につけて使いますが、さて、この「殿」と「様」。現在どういう立場の人に宛てて使うものでしょうか。

 殿:(男性の)同輩か目下の人
 様:広く敬意を表す

「ええっ!『殿』って言ったら『お殿様』のことでしょ!? 何で目上の人に使ったらいけないの?」

 こういう疑問を持った方も多いかもしれません。実は、これが今回の話題、「敬語がインフレする」という実例を示しています。


 ちなみに「殿」は平安時代頃から使われ始めた敬称でしたが、最初は「摂政・関白」という人臣の最高位に対してのみ用いられる言葉だったらしいです。その後、徐々に「朝廷の官位を持っている人」に使用範囲が広がり、鎌倉時代には官職に就いていない人にも使われるようになっていった。と、こんな感じです。

 その後、どうして目下の者に使われるようになったのかは分かりませんでした。しかし、こういった敬意を表す表現というものは、時間が経つに従って、一般化してしまうものなのです。


 例えば「きみとぼく」という言葉があります。よく使われる二人称代名詞(You・あなた の意味)と一人称代名詞(I・私 の意味)ですが、これ漢字で書くと「君と僕」ですね。

 これ、元来は、どんな意味だったのでしょうか?


 まず「君」ですが、日本史に詳しい人は「おおきみ」という言葉を聞いたことがありませんか? また、「君主」という言葉も存在します。

 もう分かりましたね。そう、「君」の本来の意味は「王様」なのです。


 翻って「僕」です。こちらは「下僕」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?

 実は「僕」の本来の意味は、「しもべ」とか「召使い」とかなんです。

 知ってました?


 つまり、現代において「きみとぼく」は「あなたとわたし」ですが、その昔は「王様と召使い」という意味だったということになります。