学校から

芋苗成長日記5 7月27日(月)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉っぱがかなり大きくなった感じがします。少しずつ密集地が増えてきました。

 

 左の写真は学校の前の畑です。これぐらいになるにはあとひと月はかかるでしょうか。楽しみです。

 

 中学2年生の国語の教科書に「夏の葬列」(山川方夫作)という作品が載っています。真夏の芋畑を舞台にした、幼いころの出来事が主人公の人生を翻弄させてしまうお話です。偶然が偶然を呼び、それが最後には必然になってしまったかのような錯覚を起こさせる不思議なストーリーになっています。

 過去と現在を行き来する構成になっていますが、各場面の第1文が芋畑の様子を描写しています。クライマックスに差し掛かる場面の第1文は、

 「芋の葉を白く裏返して風が渡っていく。」

 最も印象的なフレーズです。

 このお話の中では「白」という色がひとつのキーワードになっています。熱く照り続ける白い真夏の太陽。遠くで白く輝く海。そのような日常の中に、非日常である葬列の白い装束。主人公のみが知る「白」に隠された秘密とは。主人公が幼いころ体験した悪夢のような事実(戦争中、疎開先でいつも自分をかばってくれた二つ年上の白いワンピースを着たヒロコさん。その日も芋畑の中で一緒にいたそのとき、突然やってきた艦載機の機銃掃射に動けなくなった自分をヒロコさんは必死にかばってくれたのに、恐怖の極限だった彼は逆にヒロコさんを突き飛ばして死なせてしまったという過去)をずっと重荷として避け続けて生きてきた自分。他の誰も知らない過去の事実。今は、エリートサラリーマンとして毎日を送っているが、ある日の出張帰りに、あの悪夢のような場所に戻ってきます。あの日と同じ芋畑を眺めることを一つの区切りとして、あの悪夢を自分の中に永遠に埋葬しようとしたのでした。ところが、新たな事実が発覚し、逆に二重の苦しみを背負うことになります。それは、ヒロコさんの死とともにそれが原因で亡くなったヒロコさんの母の死でした。結果、彼は二つの死を受け止めて生きていく覚悟を決めるのでした。それまで避け続けてきて、悪夢のような記憶を永遠に自分の中に封印しようとしたのに、逆に苦しみが倍になってしまったという悲劇。戦争の時代の、けっして特別ではなくありがちな日常のある一場面が、少年の人生を翻弄した読み応えのある小説です。

 「芋の葉を白く裏返して風が渡っていく」

 芋の葉の裏側に隠されていた白。風が、それまで隠れていたもうひとつの事実を白日の下にさらしたこと。いったんは「白いワンピース」を着たヒロコさんは自分が突き飛ばして死んだのではないのだと勘違いし、自分は無罪(シロ)だと軽はずみに思ってしまったこと。

 最後のどんでん返しを暗示するかのような巧みな表現として、しかも何気ない日常を切り取っただけの平凡な描写に込められた深い意味に、ついため息が出てしまいます。

 読むたびに何か新しい意味を見つけてしまいます。

 

 読書は、本との対話であり、著者との対話であります。古い本であれば、歴史上の人物との対話でもあります。そこにどんな意味を込めたのか。何を語ろうとしたのか。読み手は、作者の真意を探り、意味を知ろうとします。しかし、読み手は自分自身の経験と関連付けて新しい理解をすることで独り歩きを始めます。著者の意図と離れていきます。

 読書とはそんなものだと思います。それぞれが、それぞれの感じ方や考え方を持つことで良しとする。これからの「正解のない課題に対して、ひとりひとりが納得解や最善解をもたなければならない」時代に、最低限必要なスキルとなるはずです。

 話が長くなり、しかも全く関係ないところに飛んでしまったことを深くお詫びします。芋苗は順調に育っていました。 (文責 海寳)