学校から

失敗から学ぶ 10月12日(水)

 かつて勤務した学校で、次のようなことがありました。

 

 私が教務主任として、入学式の司会進行を務めていた時です。

 その年の入学式当日は気温が低く、前日の天気予報でも「明日は暖かい服装で」としきりに伝えてました。

 入学式の会場準備を進める中で、会場である体育館の暖房器具の設置をどうするか検討になりました。

 しかし、入学式には例年ストーブは設置していません。3月末をもって、すべて収納してしまうからです。灯油についても、3月中にすべて使い切ることになっています。灯油もないのです。

 結局、「気温が低いことは皆わかっているのだから、寒さ対策は当然してくるだろう」ということで、例年通り暖房は設置しないこととなりました。

 

 当日の朝、入学生の保護者が体育館に集まってきました。多くの方はひざ掛けやショールを用意して、寒さ対策をしていました。しかし、3割くらいの方は春用の薄手の洋服だけで、式の中盤から寒がっている様子が見られました。

 

 入学式が1時間ほどで終わり、入学生は退場して各教室に向かいました。

 保護者はその場に残り、第1回目の保護者全体集会です。学年主任がいくつかの説明をしました。時間にして約15分ほどです。寒さで震えている保護者が何人もいます。

 「なんとかしよう」

 そう思い、体育館の倉庫の奥に収納したジェットヒーターの中で、灯油が少し残っていそうなもの(ヒーターをゆすり、ちゃぷちゃぷ音がするもの)を探し、1台を引っ張り出しました。集会が終わって教室に行く前に、少しでもあったまってもらおうと思ったからです。

 

 集会の終わりを見計らって、動線上にジェットヒータを移動し、点火しました。

 「ゴォーッ」という音とともに、真っ赤に燃える火が熱を吹き出しました。

 「よしっ!」

 

 心の中では、寒さに震える保護者が寄ってきて、火にあたりながら

 「あったか~い、ありがとうございます」

 そんな声を少し期待していました。

 

 ところが、期待は見事に裏切られます。

 

 最初に通りかかった、ある若い母親がひとこと、

 

 「いまごろおそいよ」

 

と、隣を歩いていたもう一人の母親につぶやいて、火にあたることもなく通り過ぎていきました。

 

 うちのめされました。

 

 事情を知らない保護者はそう思うのが自然です。

 「あるんだったら最初から出しとけよ」

 多くがそう思ったことでしょう。

 

 けれども、実際には灯油もほとんどないのです。底にたまったちょっぴりの灯油を無理やり燃やしたのですから。燃焼時間は2分ぐらいでしょうか。

 

 このとき、「過剰なサービスは不満しか生まない」と学びました。

 

 ただ、そのあとから来た数名の母親は、火にあたりながら

 「あ~、あったまる~」

と言って喜んでいたことに、少し救われた気がしました。 

 

 いろいろなことがあります。すべて学びになっています。 (文責 海寳)