日誌

心の芯

 私が小学6年生のときのことです。先生に度々「将来なにになりたいか」と聞かれました。友人たちはそれぞれに、お花屋さんとか保健室の先生だとか答えていたのですが、私はてんで思いつかず、途方に暮れました。

 そこで家に帰って母に相談すると、母はあっさり言いました。「あぁ、それは質問が良くないね。そんなこと、考えなくていいよ。」と。驚いて理由をたずねると、母は続けました。
 「小6のあなたが知っている仕事なんて、世の中にある仕事のほんのひと握りにすぎないの。しかも仕事は常に変化しているから、あなたが大人になったときも同じようにあるとは限らない。だから、いま無理になにになりたいかを決める必要なんてないのよ。それよりも、自分はどう生きたいか、なにを大切にするのか、心の芯を大切に育てなさい」
 
 けっこう難しいことを言われたと思うのですが、当時の私は小6なりに納得し、ずいぶん心が軽くなりました。

 私はみなさんより年齢がひと回りほど上で、少しだけ先に社会に出ました。すると思っていた以上に世の中というものはあやふやで、すぐに形が変わるものだと実感します。社会の変化にあわせて新しく生まれる仕事もあれば、消えていくものもあります。東日本大震災のような災害が起こり、「あなたはどう動くのか」と突然つきつめられることもある。

 変化する世の中を歩いていくのに一番頼りになるコンパスは、自分の心かもしれません。自分はなにを大切にし、どう生きるのか。その芯さえしっかりもっていれば、不確実な中もわりと楽しく自信をもって歩けます。先が見えないときも一歩踏み出す勇気をもてます。でも自分の芯がないと振り回されることになりかねません。

 社会の変化が早まる中で、「なにになりたいか」という問いの意味は薄れ、「どう生きたいか」と問いて鍛えた心こそが、いざというときに頼りになるのだと思います。

 職場体験学習を終えた今、それぞれの職業という枝葉の部分で、実際に体験し考えた3日間、そのいっぽうで、幹の部分、根幹の部分、「社会の中で生きる」ということをさらに一緒に考えられたらと思い、ある記事から引用しました。この記事は、道徳教育の研修で、高松大学 副学長の七條正典氏が引用したものです。

引用先:四国新聞平成29年1月9日付 「成人の日に寄せて」 
     気仙沼ニッティング社長 御手洗瑞子氏

 今後、科学技術の発展により、人工知能(AI)の研究開発がさらに加速し、私たちのくらしや営みはきっと豊かなものになるでしょう。その一方で、2045年には人工知能は人間の脳を超えるシンギュラリティに到達するといわれています。
 あと27年、現在の中学生が40代に突入します。その時の職業は、今とはまったく様変わりしていることと思います。だからこそ、職場体験学習で学んだことを通して、働くこととは?社会でどう生きたいのか。その根っこの部分を、学校で、家庭で、地域で育てていけたらと思います。