校長からのメッセージ

校長のことばコラム 方言の不思議(2)同じ市内で言葉が違う!?

 前回は、人為的に作られた境界が言葉を変えた例を挙げました。しかしそれだけでなく、自然の境界が方言の違いを生み出しているケースもあります。

 皆さんは「無アクセント方言(※一型アクセントとも)」と呼ばれるものを知っていますか? 文頭から全体的に平板に発音し、語尾だけアクセントが上がるところに特徴がある方言です。いわゆる茨城弁や栃木弁に見られる、あの話し方ですね。

 この無アクセント方言、不思議なことに、隣接しているにもかかわらず、千葉県ではほとんど話されていません。

 現在は共通語が広く使われているため、あまり気にならないことも増えました。しかし、私の高校時代には、佐原と潮来の出身者の間で、語彙はほぼ同じなのにイントネーションが全く異なり、びっくりしたことをよく覚えています。

 これは、2つの街の間を利根川が隔てており、これが移動の障害となって方言に違いが現れた。というのが理由のようです。


 香取市と潮来市は隣接しているとはいえ別の県ですから、イントネーションが異なるのも無理はないと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、この千葉・茨城の県境付近には、同じ市内でありながらイントネーションの異なる場所も存在します。

 どこかといえば、茨城県稲敷市。さらに言えば、市内でも旧東町にあたる地域です。

 私の得た情報によると、この旧東町、南側と北側でイントネーションが異なるとのこと。具体的には、南側は千葉県と同じ共通語型のアクセント、北側は茨城弁特有の無アクセントで話されているそうです。

 では、なぜ大きな移動の障害が見当たらない狭い町内で、南北に方言の差が生まれているのでしょうか?

 調べてみると、なんと、旧東町の南側は、明治32年まで千葉県だったのです。


 当時の千葉県は財政的に厳しく、利根川両岸の堤防整備を単独で賄うことができませんでした。そこで治水工事の費用を茨城県にも負担してもらうため、北岸にあった金江津村、十余島村、本新島村を茨城県に編入したとされています。

 その後、昭和の大合併により、もともと茨城県に属していた伊崎村と、十余島村、本新島村が合併した結果、同じ町内でありながら、旧下総国・千葉県エリアと旧常陸国・茨城県エリアでイントネーションが違うという事態に至ったようなのです。

 これは、県境が変わった後も、もともとの地域のつながりや文化が生き続けていることを示す興味深い例といえるでしょう。